漢方臨床レポート 吸入ステロイド薬(ICS)+長時間作用性β2刺激薬(LABA)を用いても咳嗽が残存する咳喘息に対する人参養栄湯の有用性

千束呼吸器アレルギークリニック(東京都) 木原 令夫

従来の西洋医学的治療を行っても咳嗽が残存する咳喘息患者の中には、長期間咳嗽が続くことで食欲不振や疲労倦怠感などのQOLの低下をきたすケースが存在する。吸入ステロイド薬(ICS)と長時間作用性β2刺激薬(LABA)を半年以上併用してもなお咳嗽が残存し、QOLの低下がみられる咳喘息患者に対して人参養栄湯の追加投与を行ったところ、患者の咳に対する自覚症状や治療満足度の改善が認められた。

はじめに

咳喘息は喘鳴や呼吸困難を伴わない慢性咳嗽が唯一の症状であり、喘息の亜型である[1]。通常の治療では軽症に中用量の吸入ステロイド薬(ICS)単剤、中等症以上には中~高用量の吸入ステロイド薬(ICS)を中心に、必要に応じて長時間作用性β2刺激薬(LABA)またはロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)、テオフィリン徐放性製剤を併用することもある。

これらの治療によっても咳嗽が残存する咳喘息患者の中には、長期間咳嗽が続くことで食欲不振や疲労倦怠感などのQOLの低下をきたすケースが存在する。

人参養栄湯は、食欲不振や疲労倦怠を効能・効果に持つ漢方薬で、昨今は加齢を背景とした疾患に対して広く有用性が認められている。

従来の西洋医学的治療でコントロール不良な咳喘息患者の、咳が続くことで起きたQOL低下に対し、人参養栄湯の追加投与が患者の自覚症状やQOLおよび治療満足度に及ぼす影響について調査を行った。

対象および方法

吸入ステロイド薬(ICS)と長時間作用性β2刺激薬(LABA)を半年以上併用してもなお咳嗽が残存し、QOLの低下がみられる咳喘息患者12例を対象とした。咳喘息の診断はガイドラインに準じ、さらにアセチルコリンを用いた気道過敏性試験により気道過敏性亢進が認められた場合とした。

従来の治療は変更せず、人参養栄湯(KB-108、7.5g/日・分2、食前)の追加投与を2週間行い、投与2週目の時点で効果が認められた場合、4週目まで継続投与した。

評価項目

評価項目は、自覚症状、副次的QOL(表1)、患者の印象とした。自覚症状は咳嗽の頻度や強さ、痰の量と切れをVASで、副次的QOLは人参養栄湯の各構成生薬の薬能から改善が期待される症状を5段階(4:とてもひどい、3:ひどい、2:ややひどい、1:軽い、0:なし)で、患者の印象については症状の改善、人参養栄湯の味・飲みやすさに対する評価と、総合評価(症状改善度や飲みにくさ等のすべてを勘案し、人参養栄湯を併用して良かったと思うか)を7段階で評価した。

なお、これらの評価は患者自身によるアンケート記入形式により行った。

統計処理

1. 患者背景

患者背景を表2に示す。男性5例、女性7例、年齢は49.4±16.1歳、罹病期間は14.3±15.9年であった。

従来の治療薬として、吸入ステロイド薬(ICS)と長時間作用性β2刺激薬(LABA)を併用していた。他にはロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)や鎮咳去痰薬、抗ヒスタミン剤などを併用した。

2. 自覚症状

咳の頻度、咳の強さ、痰の量、痰の切れの合計値を求め、その推移を図1に示した。

人参養栄湯の追加投与後において、咳の頻度と咳の強さに有意な改善が認められた。

3. 副次的QOL(表1)

副次的QOLについて、改善率(改善(1段階以上)例数/投与前有症状例数×100)を表3に示す。改善率は「すぐに汗をかく」「動悸」「めまい」「頭痛」「神経痛、関節痛」「貧血」「体の冷え」「わきの痛み、腹痛」「下痢」「体力低下」「食欲不振」「のどのはれ、痛み」「よく眠れない」「日中の仕事、家事、勉強に集中できない」で高かった。対象全体の推移を検定したところ、「体の冷え」の改善が有意であった。

4. 患者の印象

結果を図2に示した。症状の改善については75.0%の患者が人参養栄湯の服用前と比べ症状が「かなり良くなった」「良くなった」「少し良くなった」と回答した。

人参養栄湯の飲みやすさについては、「飲みやすい」「まあまあ飲みやすい」といった肯定的な回答が50.0%、「飲みにくい」「少し飲みにくい」といった否定的回答が41.6%と近かった。

総合評価にて人参養栄湯を併用して良かったと「すごく思う」「思う」「少し思う」との回答は75.0%であった。

5. 安全性

調査期間中、眠りが浅いとの訴えが1例あり、投与を中止した。投与中止後、症状は改善した。調査薬剤との因果関係は不明であった。

考察

人参養栄湯は体力低下・疲労倦怠・食欲不振といった、全身状態のQOLに関連した適応を持つ漢方薬である。呼吸器関連では肺癌やCOPDにおける全身症状の改善[2,3]で報告がある。

科学的薬理作用としては、骨髄の造血改善作用[4]、NPYニューロンを介した食欲改善作用[5]、血中グレリン濃度の改善[6]、悪液質モデルの骨格筋萎縮改善作用[7]、間質性肺炎モデルの抗炎症作用[8]などを有する。

以前、筆者はアレルギー性鼻炎合併喘息の西洋医学的薬物治療でコントロール不良だった患者に小青竜湯を追加投与する試みを行った。本来の治療目標である疾患と合わせ、それ以外の症状をも同時に治療していくことは、患者のQOL向上につながった[9]。今回の咳喘息の治療においては、治療目標は咳嗽の長期化による全身状態のQOL低下である。そこで今回の検討では人参養栄湯の構成生薬の薬能から改善し得る症状、および咳喘息症状の自覚症状の項目を設け調査を行った。人参養栄湯の追加投与によって、全身状態のQOLの一つとして「体の冷え」が改善し、それと同時に「咳の頻度」「咳の強さ」を中心とした咳喘息症状の一部も改善した。

一般的に人参養栄湯は飲みにくいという評価もあるため、今回「味・飲みやすさ」も検討した。こちらは肯定的な意見と否定的な意見が半々という結果になったが、症状の改善も含めた総合評価としては75.0%が肯定的な意見であった。

筆者は漢方薬の西洋薬に比した最も大きな特徴は、患者QOLへの貢献にあると考えている。漢方薬は患者が有する疾患に付随する症状改善効果のみならず、疾患と直接関連性の低い症状に対する作用も有し、それもまた患者QOLの向上に大きく寄与していると考える。

参考文献

  1. 斎藤純平: 咳喘息. 日内会誌 109: 2116~2123,2020
  2. 螺良英郎 ほか: 肺癌患者のQuality of Lifeの立場から、人参養栄湯エキス細粒の有用性の検討. Ther Res 15: 1239-1252, 1994
  3. Hirai K, et al.: Usefulness of Ninjin’yoeito for Chronic Obstructive Pulmonary Disease Patients with Frailty. J Altern Complement Med 26: 750-757, 2020
  4. 川喜多卓也 ほか: 人参養栄湯の免疫薬理作用とその臨床応用. Prog. Med. 19: 2113-2121, 1999
  5. Goswami C, et al.: Ninjin-yoeito activates ghrelin-responsive and unresponsive NPY neurons in the arcuate nucleus and counteracts cisplatin-induced anorexia. Neuropeptides 75: 58-64, 2019
  6. 千葉殖幹 ほか: 抗がん剤使用に伴う食欲不振に対する人参養栄湯の効果およびその機序. phil漢方 80: 22-25, 2020
  7. Ohsawa M, et al.: Effect of ninjin’yoeito on the loss of skeletal muscle function in cancer-bearing mice. Front Pharmacol. 9: 1400, 2018
  8. Tanaka K, et al.: Therapeutic effect of a traditional Chinese medicine, ren-shen-yang-rong-tang(Japanese name: Ninjin’yoeito)on nitric oxide-mediated lung injury in a mouse infected with murine cytomegalovirus. Int Immunopharmacol 6: 678-685, 2006
  9. 木原令夫: アレルギー性鼻炎合併喘息に対する小青竜湯追加投与の意義. 医学と薬学 72: 279-286, 2015