漢方臨床レポート 高齢慢性めまいにおけるフレイル治療の必要性

横浜市立みなと赤十字病院 めまい平衡神経科(神奈川県) 新井 基洋

人参養栄湯(以下、人養)はフレイルにも効果が期待されており、人養のめまいリハビリテーション(以下、リハ)との併用治療結果を過去に報告した。この報告から高齢者のみを再集計し、高齢者の慢性めまい患者治療にフレイル治療も併せて行う必要性について報告する。対象は19例で、フレイル合併は9例(47%)と従来報告の約4倍を認めた。入院めまいリハと、6ヵ月間の外来継続リハと人養の併用で、8例は非フレイルになった。以上より、リハと人養との併用でフレイル合併の改善が確認できた。高齢者の慢性めまい治療にはフレイルが高率に合併するので、めまい治療に併せて人養を用いたフレイル治療を行う必要性を認めた。

緒言

今回、高齢めまい患者にフレイル合併が及ぼす影響を検討するため、これまでの検討内容[1, 2]から高齢者のみを再集計した。

対象

2017年4月~12月に当科に入院し、退院後6ヵ月まで検査を施行した高齢者19症例(男性1例、女性18例、平均年齢は72.7±3.8歳)で、対象疾患は耳石置換法治療後にふらつきが残存する良性発作性頭位めまい症9例、加齢性めまいを含む持続性平衡障害5例、ハント症候群後遺症など一側前庭障害代償不全症例が5例。

方法

1.めまいに対する治療(抗めまい薬を使用していない)

めまいリハビリテーション(以下、リハ)を入院中は1回約20分、1日4回、外来では1日3回を退院後外来・自宅で1、3、6ヵ月まで継続施行した1, 2)。

2.フレイルに対する治療

食欲不振、疲労倦怠感、病後の体力低下などへの効能・効果を有するクラシエ人参養栄湯エキス細粒(KB-108)を、1回3.75g、1日2回、朝夕食前投与を入院期間および6ヵ月間継続した1, 2)。

検討項目と統計学的解析

検討項目は以下の項目を入院初日と1、3、6ヵ月後の再来時に実施した。

統計学的検討は、Statcel4にて、Freedman+BonferroniまたはShaffer検定を用い、p<0.05の場合に統計学的な有意差とした。数値はmean±SDで表記した。

検討項目

1.めまい検査

①Dizziness Handicap Inventory(以下DHI)1, 2)は、めまい症状と身体機能障害と精神症状から成り、その合計スコア(Total:DHI-T)を用いた。②重心動揺検査1, 2):基準的方法に従い被験者を重心(アニマ社製GW31)上に閉足にて直立させ、開眼・閉眼60秒間記録をした。パラメーターは開眼・閉眼単位軌跡長、開眼・閉眼外周面積を用いた。

2.QOL検査:SF-81, 2)

SF健康調査簡易版は重要項目を抜粋したもので身体機能面(PCS)と精神面(MCS)を測定した。

3.基本チェックリスト(うつ項目を除く)1, 2)

基本チェックリストとは要介護状態等となるおそれの高い者に実施する20項目からなる検査。

4.フレイル症状1, 2)

次の5症状(①体重減少、②疲労感、③ 歩行速度の低下、④ 活動性の低下、⑤ 筋力の低下)を質問し、フレイル合併率とその改善率を求めた。

5.フレイル関連検査1, 2)

①左右握力、②VAS(疲労と食欲)、③5m歩行速度、④身体検査(体重・BMI)、⑤血液検査(総蛋白、アルブミン値)、⑥活動量(歩行日数、1日の歩行時間、1日の座位安静時間)を検討した。

結果

1.めまい検査

①DHI-T(図1):治療前DHI-Tは47.6±19.0点が、1ヵ月後で36.9±23.0点に(p<0.01)、3ヵ月後で27.8±21.2点に(p<0.01)、6ヵ月後では25.1±22.6点に(p<0.01)改善を認めた。②重心動揺検査:治療前と1ヵ月後の閉眼外周面積のみ改善した(p<0.05)。

2.QOL検査

SF-8(身体機能面(PCS)、精神面(MCS))PCS(図2左)は治療前が39.9±5.5点で、1ヵ月後で44.3±6.0点に(p<0.05)、3ヵ月後で45.2±5.0に(p<0.01)、6ヵ月後では40.0±10.6であった(n.s)。MCS(図2右)は治療前が44.5±8.7点で、1ヵ月後で48.9±4.9点に(p<0.05)、3ヵ月後で47.5±5.9(n.s)、6ヵ月後では48.6±8.4で(n.s)、ともに改善不十分であった。

3.フレイル症状(合併率と改善率)

フレイル症状(図3)は治療前が2.3±1.4個で、1ヵ月後で1.0±1.3個に(p<0.01)、3ヵ月後で0.7±1.0個に(p<0.01)、6ヵ月後は1.1±1.5に改善し(p<0.01)、結果、フレイル合併は9例(合併率47%)から6ヵ月後で1例のみで、8例が非フレイル(改善率は89%)と改善した。

4.基本チェックリスト

総合、運動機能、栄養、口腔機能、外出、物忘れまでの6要素20項目の合計(図4)は、治療前が4.1±1.8で、1ヵ月後で3.9±2.2(n.s)に、3ヵ月後で3.3±1.6(p<0.05)になり一時的に軽快するが、6ヵ月後は3.8±1.9(n.s)で改善しなかった。

5.フレイル検査

①左右握力(kg):右平均握力は治療前が25.4±5.3で、3ヵ月後で26.8±5.7に(p<0.05)、6ヵ月後では26.7±5.9に改善した(p<0.05)。左平均握力は治療前が23.3±5.0で、3ヵ月後で25.1±5.4に(p<0.01)、6ヵ月後は24.8±5.5に改善した(p<0.05)。②VAS(mm):疲労項目は治療前が47.8±27.4で、1ヵ月後で35.7±26.7に(p<0.05)、3ヵ月後は29.6±27.5に改善(p<0.05)、6ヵ月後には22.1±22.7に改善した(p<0.01)。食欲項目と③5m歩行速度、④身体検査(体重・BMI)、⑤ 血液検査(総蛋白、アルブミン値)、⑥ 活動量:歩行日数は3ヵ月後のみ改善したが(p<0.05)、歩行時間、座位安静時間は改善がなかった。

安全性

人養の服用期間中、中止および薬剤による副作用発現も認めなかった。

考察

重心動揺検査、基本チェックリスト及び身体・精神QOL(SF-8)の改善は不十分であった。理由は高齢に伴う複数の合併症に起因すると考察した。めまい治療としてのリハ(運動)でDHI改善、運動と人養によるフレイル治療でフレイル症状と握力改善を認め、フレイル改善率が89%の結果からフレイル基礎治療薬剤として人養が有用であると考えた。さらに、過去のわれわれの報告[2]では65歳未満のフレイル改善率が60%で握力改善を認めなかったことから、リハと人養の併用治療は特に65歳以上の高齢者でより効果を認めると考えた。

まとめ

高齢者のめまいはフレイルの高率の合併に伴う対処も重要であり、人養はフレイルへの有効性(疲労・筋力等)が知られており、上記結果からその効果を確認できた。

参考文献

  1. 新井基洋: 難治性めまいに対するめまい集団リハビリテーションと漢方製剤の併用療法(第7報)~フレイル治療の必要性と人参養栄湯の効果について~. 漢方と最新治療 28; 393-402, 2019
  2. 新井基洋: フレイルを合併した難治性めまい患者におけるめまいリハビリテーションと漢方併用療法の効果. 耳鼻咽喉科頭頸部外科 92; 89-98, 2020
  3. 利益相反に該当する事項はない