BASIC RESEARCH 人参養栄湯による血中オステオカルシン量に対する影響

名古屋市立大学 大学院薬学研究科 神経薬理学分野 大澤 匡弘、山﨑 久朗

はじめに

超高齢・少子化社会となったわが国では、高齢者が健康的に長期にわたり活動できる社会を実現することが重要な課題となっている。特に、身体的能力においては、加齢に伴い著しい低下が認められるが、その詳細なメカニズムは明らかになっていない。また、加齢に伴う細胞機能や生理学的機能の変化を改善または緩徐にする介入法も確立されていない。加齢に伴う生体機能の変化に対しては、様々な取り組みが行われている。

近年、日本で開発されたエキス製剤の漢方薬である人参養栄湯が老化に伴う生理機能の変化を改善すると報告され[1]、その作用に注目が集まっている。人参養栄湯は、臨床現場において、ICD-10に準拠して処方され、体力低下、全身倦怠感、食欲不振、寝汗、冷え症、貧血の際に用いられる。これらの症状は、加齢にともなう身体変化と重なる部分が多く、高齢者の身体機能の維持や向上させることができると期待されている。

人参養栄湯の作用

人参養栄湯は、前述の如く多岐にわたる作用を有しているが、その発現メカニズムについては様々な研究がなされている[1]。特に、中枢神経系に対する影響がよく検討されており、視床下部に作用しニューロペプチドY(NPY)神経を活性化することで、摂食に対して促進的に作用し、不安に対しても抵抗性を発揮することが示されている[2-6]。

ほかにも、オレキシン神経系にも影響を与え摂食を促進することも報告されている[7]。また、代謝系に対する影響についても検討が行われており、糖尿病動物の血糖値低下作用やがん悪液質モデル動物の骨格筋に見られる変化を改善することが明らかにされている[8-10]。

さらに、閉塞性肺疾患(COPD)患者の骨格筋機能の低下も改善することが臨床研究ならびに基礎研究にて報告がなされている[11, 12]。このように人参養栄湯には、全身性に作用を発揮することが基礎研究から明らかにされており、その作用機序について基礎研究が展開されている。

骨組織由来ホルモンの作用

骨組織は全身の至るところに存在しており、人体を支え、内臓を保護し、カルシウムの貯蔵や造血を行っている。また、骨組織からホルモンが分泌されていることが明らかにされ、全身の代謝調節にも関わっていることが明らかになっている[13]。

骨組織より分泌されるホルモンにはオステオポンチンやオステオカルシンがあり、骨組織由来ホルモンとして総称される。オステオポンチンは、カルシウムとコラーゲンを結合しており、骨基質を作り出していることが知られているが、最近になり免疫系の活性化に関わることも報告されている[14]。

オステオカルシンは、骨組織より分泌されるホルモンであり、骨芽細胞内で合成されるため、骨形成過程のマーカータンパク質として利用されているが、オステオポンチンと同様に代謝に対する効果や骨格筋に対する効果などの作用も明らかにされている[15]。

人参養栄湯の作用と骨組織由来ホルモンの生理機能には高い相関性があるにも関わらず、その関連性については研究が一切なされていない。そこで、本研究では、人参養栄湯が血中の骨組織由来ホルモン量に与える影響について、マウスを用いて検討を行った。

実験方法

使用動物

実験には、12~20週齢のC57BL/6J雄性マウス(SLC)を用いた。明暗サイクル12時間で、温度・湿度をコントロールした部屋で飼育した。すべての動物実験は名古屋市立大学大学院薬学研究科の動物実験倫理審査の承認を得て行った。

血漿サンプルの採取方法

人参養栄湯(1.6g/kg/day)または精製水を飲水により14日間マウスに摂取させた。14日目にイソフルラン麻酔下にて、マウスの頸動脈より血液を採取した。血液を室温にて30分以上放置し、8000rpm、4℃にて20分間遠心分離し、上清を回収して血漿サンプルとした。サンプルはEnzyme-Linked ImmunoSorbent Assay(ELISA)に用いるまで-80℃にて凍結保存した。

Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay(ELISA)によるオステオカルシン類の測定

Glu-オステオカルシン(不活性型、タカラバイオ、滋賀)およびGla-オステオカルシン(活性型、タカラバイオ、滋賀)、オステオポンチン(株式会社免疫生物研究所、群馬)の測定は、ELISA法により行った。ELISA法による測定は、Kitに添付の実験プロトコルに準じて測定を行った。

統計処理

データはすべて平均値±標準誤差で示した。2群間の検定にはF検定の後、Student’s t-testを用いて有意差検定を行った。危険率が5%未満のものを有意な変化として評価した。

結果

人参養栄湯の血漿オステオポンチン量に対する影響

骨芽細胞が産生する非コラーゲン性のタンパク質であるオステオポンチンの血中濃度に対する人参養栄湯の影響を検討した。人参養栄湯(1.6g/kg/day)を14日間、飲水により与えることにより、オステオポンチン量に有意な影響は認められなかった。

人参養栄湯の血漿オステオカルシン類量に対する影響

骨芽細胞由来のホルモンであるオステオカルシン類の血中濃度に対する人参養栄湯の影響を検討した。人参養栄湯(1.6g/kg/day)を14日間、飲水により与えることにより、活性型のオステオカルシンであるGla-オステオカルシンの血漿中の量が増加した。

一方、不活性型のオステオカルシンであるGlu-オステオカルシンに対しては、人参養栄湯の飲水摂取により有意な影響は認められなかった。

考察

人参養栄湯を14日間に渡り飲水により与えることで、骨組織由来ホルモンであるオステオカルシンの活性型であるγカルボキシグルタミン酸(Gla)オステオカルシン量が上昇したものの、不活性型であるGlu-オステオカルシン量には有意な影響が認められなかった。また、オステオポンチン量は、人参養栄湯の摂取により有意な影響を受けなかった。

オステオポンチンは、免疫系の活性化や血管系のリモデリング、骨吸収、創傷の治癒などに関与していることが知られている[16]。

オステオポンチンは、加齢に伴い血中濃度が変化することが知られており、高齢者において増加しているタンパク質である。動物実験において、オステオポンチン欠損マウスでは、野生型に比べて抗タイプⅡコラーゲン抗体で誘発される実験的関節炎モデルでの骨吸収が抑えられていることが報告されている[17]。

近年の臨床研究より、オステオポンチンは高齢者の股関節骨折の発生率と正の相関を示すことから、股関節骨折の予想因子となることが報告されている[18]。

これらのことから、オステオポンチンは、骨吸収を促進させるため、骨密度の減少や骨強度を低下させることが考えられる。本研究では、人参養栄湯によりオステオポンチンの血中濃度に対する影響は認められなかった。

人参養栄湯には、大腿骨や第4腰椎の骨密度低下を改善する作用や破骨細胞から放出されるサイトカイン類の産生抑制が報告されているギンセノサイドRb2を含む人参が配合されていることから、オステオポンチンへの効果も期待されていたが[19]、本研究の結果からは、オステオポンチンに対する作用とは異なるメカニズムで骨密度の低下を改善する作用を発現していることが示唆された。

一方、本研究の結果より、血漿中のGla-オステオカルシン量が人参養栄湯により上昇していた。

オステオカルシンは、γカルボキシラーゼによりグルタミン酸残基がカルボキシル化されることで活性型になり、アパタイトと結合し骨基質となる。一方、一部のオステオカルシンは、カルボキシル化を逃れて低(無)カルボキシル化状態のオステオカルシン(Glu-オステオカルシン)として血中に存在している。

Glu-オステオカルシンは骨基質として骨に蓄積されないものの、血中では多彩な生理作用を発揮する。特に、Glu-オステオカルシンはGPCR6a受容体を介してインスリン合成や分泌の促進[13]、アディポネクチン分泌促進[13]、記憶力や認知機能改善[20]、テストステロン分泌促進[21]、筋肉量(骨格筋量)増加[22]、NO産生による血管弛緩[23]、精力亢進[24]などを引き起こすことが報告されている。

これらの作用は、人参養栄湯でみられる食欲促進、認知機能改善、抗疲労、意欲発動、抗うつ、骨格筋強化、骨量増加、前立腺肥大症状改善の作用と類似していることから、オステオカルシンの関与が想定されたものの、本研究の結果より血漿中Glu-オステオカルシン量は人参養栄湯で変化しなかったことから、オステオカルシン以外の生理反応によるものであると示唆された。

しかし、血漿中のGla-オステオカルシンは、酸性条件などでGlaが外れGlu-オステオカルシンになることが知られていることから[25]、人参養栄湯の薬理作用発現の一部にはオステオカルシン量の上昇が関わっている可能性がある。

また、過去の報告から、血漿中のGla-オステオカルシン量が骨粗鬆症患者の骨形成治療の指標として用いることができることが示されていることから[26]、本研究結果のGla-オステオカルシン量の上昇は人参養栄湯の骨量上昇作用の裏付けになるものといえる。

本研究の結果より、人参養栄湯が血漿中Gla-オステオカルシン量を上昇することが明らかになった。オステオカルシン遺伝子の発現などについては、ビタミンD3の関与が考えられている。

一方、人参養栄湯によるオステオカルシン発現量の変化については報告がないことから、今後、骨芽細胞への人参養栄湯の作用を検証することなどを通じて、オステオカルシン量を上昇するメカニズムを明らかにする必要があろう。

参考文献

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