漢方臨床レポート 暑気あたりの倦怠感に補中益気湯が奏効した2症例

なかむら漢方内科(熊本県) 中村 雅生

暑気あたりに対して清暑益気湯を使用したものの、倦怠感などの症状が残存した患者に対し補中益気湯に変更することで、倦怠感の消失がみられた2症例を報告する。

清暑益気湯は津液不足に特に有用な処方であるが、強い倦怠感がみられる症例には補中益気湯が適した方剤であると考える。

緒言

暑気あたりとは夏バテ、夏負けなどと呼ばれ、夏季の高温多湿環境により倦怠感や異常発汗などの症状を呈する状態である。暑気あたりは漢方の得意とする症候群の一つであるが、特に頻用されるのは清暑益気湯や補中益気湯である。

今回、この二剤の鑑別の知見に有用と思われる症例をみたため報告する。

症例1 49歳、女性

【主訴】 浮腫、夏季の倦怠感

【現病歴】 X年5月中旬、体のむくみがあるとのことで漢方治療を希望して来院した。むくみを自覚するようになって7~8年になり、部位は下肢が主であるが、手や起床時には顔にも認められ、尿量も少ないとのことであった。下肢のむくみが主体であることから防已黄耆湯エキス剤7.5g/日を用いた。むくみは徐々に改善したが、服用を止めるとむくみが出やすいとのことで処方を継続した。6月下旬に入り、気候が暑くなってきたことにより倦怠感の症状を認めるようになり、これについても漢方治療を希望した。ここ数年夏になるとだるさが出るようになったとのことであった。暑気あたりと考えられ清暑益気湯エキス剤7.5g/日を処方した。

【所見及び症状】 身長159cm、体重52kg、血圧93/63mmHg。脈診:沈で腎脈弱。舌診:淡紅で軽度の歯痕。腹診:腹力中程度、臍下不仁著明。倦怠感は強いが食思不振は認めない。不眠、時に頭痛、むくみ、便秘を認めた。

【経過】 清暑益気湯を2週間服用したが、効果があまり認められないとのことであり、倦怠感が主な症状であることからクラシエ補中益気湯エキス細粒 7.5g/日に変更し処方した。2週間服用して倦怠感が減少してきており効果が認められるとのことであった。補中益気湯を継続することによって倦怠感は改善し、9月下旬で終薬した。

症例2 51歳、女性

【主訴】 夏季の倦怠感

【現病歴】 X年7月中旬、夏場になり疲れるとのことで漢方治療を希望して来院した。この数年夏になると、1日中疲れており、起床してからきつく、仕事から帰ったら暫く横になる状態とのことであった。汗が出やすい方で、朝の犬の散歩から帰ると汗だくになり下着を変えていた。

【所見及び症状】 身長157cm、体重54.6kg、血圧112/61mmHg。脈診:沈やや弱、腎脈が弱い。舌診:淡紅、軽度の白苔。腹診:腹力中程度、軽度の臍上悸、左臍傍圧痛、臍下不仁を認める。倦怠感著明、食思低下認めず。時に不安感、イライラ、音に敏感であり、時に頭痛、肩こり、眩暈、耳鳴りがある。冷え症を認める。

【経 過】 夏になり倦怠感が著しく、発汗も多く、食思不振は認めないが暑気あたりと思われ、清暑益気湯エキス剤 7.5g/日を2週間処方した。服薬後発汗は少し減少したが、疲労感には効いていないとのことであった。次にクラシエ補中益気湯エキス細粒 7.5g/日に変更し処方した。服用後倦怠感は減少してきているとのことであった。引き続き1ヵ月同処方を継続し、症状が軽快したため終薬とした。

治療期間中いずれの症例においても薬剤に起因すると考えられる副作用は見られなかった。

考察

日本で医療用エキス製剤として用いられる清暑益気湯は「医学六要」を出典とする方剤であり、補中益気湯の変方である。清暑益気湯は補剤の中でも暑気あたりに対して特別に作られた方剤として知られている。一方で、補中益気湯は暑気あたりによる倦怠感を含む通年性の倦怠感に使用されている。そのため、諸家において夏は清暑益気湯、夏以外の季節は補中益気湯と使い分けられている。清暑益気湯は元来津液の不足と気の消耗が合併している状態に使用されてきた。しかし現代人においては夏場の気の消耗は著しいが、津液の不足はあまりないと考えられる。特に近年の新型コロナウイルス感染症の拡大などで普及した在宅勤務などにより、盛夏でもほとんど汗をかかない症例はその典型例である。そのため古くから暑気あたりに対して第一選択とされてきた清暑益気湯であるが、現代人の暑気あたりにおいては、補中益気湯との鑑別が重要になると考えられる。

今回報告した症例1では清暑益気湯の2週間投与後、さらに2週間継続することも検討したが、主症状が倦怠感であったことから補中益気湯に変方した。夏になると倦怠感が出てくるとのことで暑気あたりであると考えられるが、口が乾く、手足の熱感など津液の不足を示唆する症状は認めないため、気と津液の不足に対処する清暑益気湯では良い効果が得られなかったのではないかと考えられた。症例2では清暑益気湯にて発汗の改善が認められたが、夏は仕事から帰ると暫く横にならざるを得ないほど疲れるとのことであり、清暑益気湯ではこの気の消耗を補えず、補気の効果に優れている補中益気湯が必要な病態かと考えられた。

関矢ら[1]は痰の切れが悪い、咽喉部のカサつきの自覚症状などがあった気管支喘息患者に対して、清暑益気湯を投与し症状の改善した症例を報告している。この症例において通年性で現れる自汗症状があったことからもやはり強い自汗症状や津液不足を示唆する症状が清暑益気湯の使用目標となることがうかがえる。

また、仙頭[2]はめまいや嘔気を訴え、職場で暑さを感じる患者に清暑益気湯およびその他の漢方製剤を併用した症例を報告している。自汗に関しての記載はないが、津液不足に伴う熱症状が強く現れている症例であると理解できる。

倉恒ら[3]は慢性疲労症候群患者に対して補中益気湯を投与し、PSで評価した疲労・倦怠の程度が有意に改善したことを報告している。このことからも強い倦怠感に対しては補中益気湯が効果的であることが示唆される。

稲木[4]は元来胃腸虚弱な人が高温多湿により胃腸症状、疲労倦怠感を呈した場合や手足が火照るなどの熱症状には清暑益気湯を用い、元来胃腸症状が少ない例には補中益気湯を用いるのがよいとしている。

以上のことから私見として、清暑益気湯と補中益気湯の暑気あたりに関する鑑別を示す。

清暑益気湯は発汗が強く津液が不足した症例に適している方剤である。一方、補中益気湯は津液の不足は強くないが、気虚症状が強く倦怠感が主訴となる症例に適した方剤であると考える。

参考文献

  1. 関矢信康 ほか: 清暑益気湯が奏効した気管支喘息の3症例. 日東医誌 55: 811-815, 2004
  2. 仙頭正四郎: 西洋医学・東洋医学からみた夏バテの治療. 医道の日本 73: 89-95, 2014
  3. 倉恒弘彦 ほか: 慢性疲労症候群患者に対する1日2回服用タイプの補中益気湯の治療効果. Prog Med. 30: 505-510, 2010
  4. 稲木一元: いわゆる夏ばての対策と漢方薬の効果. 治療 79: 2084-2085, 1997